生物学的安全性評価とは

生物学的安全性評価は、「医療機器が人体にどんな影響を与えるのか」を、あらかじめ確認するための評価プロセスです。細胞毒性や刺激性といった“ヒトに対する安全性”を見きわめ、製品として使用できるかどうかを判断します。
医療機器には、皮膚にふれるだけのものから、血液・体液にふれるもの、体内に長期間留置されるものまで、さまざまなタイプがあります。そのため、生物学的安全性評価では、製品の「使われ方」や「使用環境」に合わせて、必要な評価項目を選ぶことが重要になります。
生物学的安全性評価は、“設計初期から”考えておくことで、材料変更や再試験による手戻りを防ぎ、開発をスムーズに進めることができます。
生物学的安全性評価の流れ
生物学的安全性評価は、いくつかのステップに沿って進めていきます。
ここでは、その一般的な流れをご紹介します。

材料・製品情報の整理
まずは、使用する材料の種類、添加剤、製造方法、滅菌方法、さらに「体のどこに・どれくらい触れるのか」といった基本情報を整理していきます。

リスク分析と試験項目の選定
整理した情報をもとに、「どのようなリスクがあり得るか?」を評価します。そのうえで、ISO10993にもとづき、細胞毒性や感作性、刺激性、全身毒性など、必要となる試験項目を選んでいきます。

試験実施と総合評価
選定した項目ごとに試験を実施し、結果をもとに総合的な判断を行います。試験データだけでなく、文献情報や材料の実績なども踏まえ、最終的に「使用して問題ないか」を評価します。
試験で陽性(リスクあり)となった場合でも、追加の検討により「リスクは許容できる」と判断されることもあります。
主な評価項目

生物学的安全性評価では、医療機器が人体にどのような影響を与えるかを、評価項目をもとに確認していきます。
ここでは、代表的な評価項目を分類してご紹介します。
生体適合性に関する評価
材料が細胞や組織に触れたとき、どのような反応が起きるかを確かめる評価です。
医療機器の多くで必要となる、もっとも基本的な安全性チェックです。
〈評価項目の例〉
| 材料から溶け出す成分が細胞に悪影響を与えないか(細胞の生存率などを確認) | |
| 皮膚・粘膜に炎症が起きないか(赤み・腫れなどの反応をチェック) | |
| アレルギー反応を引き起こさないか(繰り返し触れた場合の感作の有無を確認) |
全身への影響評価
材料の成分が体内に入り込んだ場合、体全体にどのような影響を与えるかを確認します。
血液や体液に触れる部品、体内に長く留まる部品では、特に重要になる評価です。
〈評価項目の例〉
| 材料由来成分が体全体に悪影響を及ぼさないか(急性〜慢性まで確認) | |
| DNAや遺伝情報へ影響がないか(変異原性の有無を評価) | |
| エンドトキシンなど発熱の原因物質が混入していないか |
特殊用途における評価
機器の使われ方によっては、より専門的な評価が求められます。
インプラントや血液回路など、リスクの高い用途では必須の項目です。
〈評価項目の例〉
| 溶血や血栓形成など、血液との相性に問題がないか | |
| 体内に埋め込んだ際の局所的な組織反応を確認 | |
| 発がんにつながる潜在的なリスクがないか |

GLP(Good Laboratory Practice:優良試験所基準)に準拠した環境で試験を行うこと、経験のある専門家が総合的に判断すること、そして材料や工程を変えたときに再評価することも重要になります。
ISO 10993 と USP ClassⅥ

生物学的安全性評価でよく登場するのが「ISO 10993」と「USP ClassⅥ」です。
どちらも“安全性を確認するための基準”ですが、対象と役割が少し異なります。
ISO 10993
ISO 10993は、 “医療機器そのものの生物学的安全性”を評価するための国際規格です。 製品が「どこに触れるのか」「どのくらいの時間触れるのか」に応じて、必要な評価項目が変わります。
医療機器ごとに必要な評価が整理されているため、開発エンジニアにとって欠かせない基準です。
- 評価項目の例
- - 皮膚に一時的に触れる製品:刺激性・感作性 など
- 体内に留置される製品:細胞毒性・遺伝毒性・埋植試験 など
USP ClassⅥ
USP ClassⅥは、米国薬局方(United States Pharmacopeia)が定める評価基準で、医療機器に使われる“材料の生体適合性”を確認するために用いられます。材料の抽出液を用いて、急性全身毒性、皮内反応、埋植による局所反応などを評価します。
「生体適合性が高い材料を選びたい」という場面でよく使われ、材料選定の目安として幅広く利用されています。
USP ClassⅥに適合していてもISO 10993が不要になるわけではなく、用途に応じて両方を組み合わせて使うことが一般的です。
評価対応を見据えた「材料選定」の重要性
生物学的安全性評価をスムーズに進めるためには、「どんな材料を選ぶか」がとても重要です。
評価は後工程でまとめて行うもの、と思われがちですが、材料選びを誤ると、試験のやり直しや評価計画の修正が必要になり、開発スケジュールに大きく影響してしまいます。
医療機器に使われる材料は、接触する部位や時間によって求められる生体適合性が大きく変わります。そのため、各材料が「ISO 10993 の評価項目に対応できるか」、「USP ClassⅥ を満たせるか」など、開発初期の段階で確認しておきたいポイントは少なくありません。
また近年では、材料情報が十分に整っていれば、科学的な根拠を示すことで試験の一部を省略できるケースも出てきました。こうした点でも、材料を早い段階で確定させておくことは大きなメリットになります。
開発では材料選びが重要ですが、とくに医療機器で多く採用されている代表的な材料がシリコーンゴムです。
ここからは、そのシリコーンゴムについてご紹介します。
医療機器で注目されるシリコーンゴム
医療機器の材料として、近年とくに注目度が高まっているのがシリコーンゴムです。
シリコーンゴムは、生体適合性・耐薬品性に優れ、オートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)のような高温環境にも耐えられるため、医療機器の高機能化を支える材料として採用が広がっています。
カテーテルやチューブ、逆止弁、パッキンなど、患者さんの体に触れる可能性がある部品では、材料そのものの「安全性」が欠かせません。その点、シリコーンゴムは ISO 10993 や USP ClassⅥ といった医療関連の基準にも適合させやすく、最終製品の評価を進めるうえでも扱いやすい材料として高く評価されています。
〈医療用シリコーンゴムの主な用途例〉
| 用途例 | 代表的なもの | 特長 |
|---|---|---|
| 流体制御部品 | 逆止弁、混注菅 | 弾性・シール性が高く、逆流防止に適している |
| チューブ・カテーテル類 | 医療用チューブ、輸液ライン、呼吸回路 | 柔軟性が高く、滅菌に強い |
| シール材 | Oリング、パッキン | 漏れ防止に優れ、薬液・熱に強い |
| ディスポーザブル製品 | コネクタ、栓、シングルユース部材 | 清浄度と量産性を両立できる |
| その他 | マスク部材、医療ガジェットの緩衝材 | 皮膚刺激が少なく、長時間の使用に向く |
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- 医療用シリコーンゴムとは?
医療用途で使われるシリコーンゴムですが、ISO 10993 や USP ClassⅥ への適合はもちろん、製造体制まで整えているメーカーは限られます。 そのため、医療機器開発では「材料選び=メーカー選び」が、非常に重要なポイントに。
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医療用途では「異物混入の防止」と「安定した品質」が欠かせません。
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- クリーンルームの基礎知識
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医療用シリコーンゴムの成形はお任せください
この記事では、生物学的安全性評価の基本や、材料選定について解説しました。
医療機器の開発では、ISO10993 や USP ClassⅥ への対応が求められる場面が増えており、「どんな材料を選ぶか」は、安全性評価を進める上で欠かせない最初のステップです。
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今回ご紹介した製品
- 医療用シリコーンゴム製品
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医療機器・医療器具に最適な、メディカルグレードの医療用シリコーンゴム製品を、クリーンルームにて一括生産しています。
